【開発秘話】トップブランドの誇りにかけて、国内初の黒メッキのペンチ・ニッパを実現

黒のメタリックが高級感を醸成するKUROKINのペンチ・ニッパ。
国内シェアNo.1を誇るフジ矢だからこそ、譲れないこだわりがありました。
製品化に至るまでの紆余曲折を、製造責任者の佐藤とデザイン責任者の太田が語ります。

 

完璧なメッキを目指してトライアンドエラーを繰り返す

 

KUROKINを開発する上で、一番こだわったポイントは?

佐藤

ペンチ・ニッパのメッキです。
当社は、国内シェア4割強を誇るペンチ・ニッパのトップブランド。
だからこそ、コストをかけてもメッキにこだわりました。
高級感のある黒を実現するのには相当苦労しました。

太田

ペンチ・ニッパのような刃物工具に黒くメッキするのは難しく、私たちも初めての試み。
少量生産の段階ではうまくいっていたので、最初は「できるだろう」と軽く考えていたのですが、大量生産に移行した途端に問題が次々と出て、最初は完成品の70%ほどに不良が出ることもありました。

どんな問題があったのでしょうか?

佐藤

メッキは、ペンチ・ニッパの本体ができあがってから、メッキ屋さんに持ち込んでやってもらっています。
でも最初はメッキがなかなかきれいにのらなかったし、ペンチを開閉するとリベット(接合部)周辺のメッキが剥がれてしまっていました。

太田

メッキ屋さんと話し合った結果、メッキ前の洗浄がよくないことが一つ原因として浮かんできました。
本来であれば、洗浄はメッキ屋さんで行うのですが、メッキ屋さんが持っている洗浄機の洗浄条件では、ペンチ・ニッパの開閉に問題が出たり、リベットの隙間に油が残ったり、表面に微細なホコリが付着したりして、メッキがきれいにのらなかったのです。

佐藤

そこで、洗浄は強力な洗浄機を導入し、内製化しました。
ただ、洗浄後はすぐにメッキ処理をしないと表面が錆びてしまいます。
何時からメッキ作業ができるから何時までに洗浄作業を終わらせて、すぐに商品を持ち込んで、という工程管理も大変でしたね。

太田

設計面でもできる限りのことをしようと、リベットの形状も見直し、メッキがはがれないように大きめの溝を作るなど、改良を加えました。

 

 

2社で頭をひねり難問を一つひとつクリア

 

メッキをするだけでかなりの苦労があったのですね。

太田

ペンチ・ニッパは刃先の厚みが部分によって異なるし、しかも開閉するものなので特に難しいのです。
メッキの特性上、刃先にメッキだまりができてしまうこともありました。
出来上がりの段階では問題ないのに、試し切りをすると剥がれてしまう。
原因は、メッキの厚さ。
厚すぎるとメッキだまりが起こるし、薄すぎると色がのらず錆びやすい。
厚みのコントロールやメッキを付着させる際のメッキの設定条件を工夫して、ぎりぎりのバランスを見つけるために何度も試作しました。

佐藤

焼きが戻ってしまうという問題もありましたね。
刃は高温で焼いて水や油で冷やすことで強度が出ますが、メッキ前の洗浄時に再び熱が入ることで刃が柔らかくなってしまう。
現在は洗浄の温度管理を調整することで回避していますが、熱を押さえて洗浄するときれいにならないのでトライアンドエラーを繰り返して・・・洗浄には本当に苦労しましたね!

太田

一つの問題が解決したと思ったらまた別の問題が出てくるのです。
次々と出てくる問題に対して、その原因が製品の製造段階か洗浄かメッキか、どの工程にあるのかを突き止めるのも一苦労。
どうりで他のメーカーではメッキをやっていないわけだ、と思いましたよ(笑)

佐藤

色を変えただけ、と思われているかもしれませんが、同じ品種でもサイズが違ったらダメ。
ペンチがいけたのにニッパがダメ。前回はいけたのに今回はダメ。
など、とにかく大変なんです。
ライバルメーカーが同じものを作ろうと思ってもできないでしょうね。

 

職人の期待に応えるため、挑戦は続く

 

開発にはどのくらいの期間がかかったのですか?

太田

一年ほどは工程を組み替えるなどしていましたね。
ただ、発売から一年ほどすると今度はメッキ屋さんが変わることに。何度も調整してようやく作り上げた生産環境が変わり、また一から調整し直すことになってしまいました。

佐藤

というのも、売上が伸びてきて生産が追いつかなくなったのです。
うれしい悲鳴ですね。最初にお願いしていたメッキ屋さんで生産できるのは月に1500丁程度。
メッキ屋さんのキャパを超えてしまったのですから、これ以上の負担はかけられない。
そこで規模の大きなメッキ屋さんに相談して、よりたくさんの数を生産できる体制を整えることにしたのですが・・・。
メッキ自体が特殊配合したものなので、そのメッキ屋さんでも扱うのは初めてで、細かな調整が必要でした。
あのメッキ屋さんではうまくいっていたのに、このメッキ屋さんではうまくいかない品種も・・・逆もありきで、何が正解なのかわからなくなりましたね。

太田

その一方で市場ではかなり好評を得て、また品薄に。そこで今年はKUROKIN専用の生産ラインを作ってもらい、月に7000丁ほどを生産できる体制を作ってもらいました。

そしてようやく完成したのが今のKUROKINなのですね。

佐藤

いえいえ。まだ完成ではありません。実は今も製品は全数検査を行なっていて、多い時では20%が基準に満たず廃棄になることもあります。
KUROKIN以外の製品では、メッキの工程まで行けばその後に不良品が出ることはまずないのですが・・・。
メッキによって開閉が硬くなることもあるので、チェック時に手作業で調整もしています。
ですから、現在もメッキ屋さんと当社の品質管理部で話し合い、精度を上げるために改良を続けているのです。

それほど人手とコストをかけて開発を続ける理由は?

太田

やはり職人さんに喜んでいただいているからです。
SNSに写真をアップして自慢してくださる方も多い。こんなペンチ・ニッパを作れるなんて、メーカー冥利に尽きますね。
これからもトップブランドの誇りにかけて、その期待に応えたいと思っています。